2006年05月19日

Code  -page3-

はぁ…。芳彦は体の中心のヘドロが気化したガスを吐き出して、立ち上がった。
 しとしと降り続く雨が街の早朝を5月の終わりに色づかせ、道ばたの所々に集まった水たまりは、曇った空を更に濁らせていた。
マンションの玄関を出てすぐ右側には自動販売機があり、いつも決まった缶コーヒーを買い、その場で半分ぐらいを飲んでから、駅に向かう。この辺りは閑静な市営の住宅地で、そこここに植えられている木々も見事に剪定されている。公園もたくさん作られていて、小さなものまで数に入れると8つもあるのだが、普段利用しているのはもっぱら老人や犬連れである。子供達はといえば階段に座ってカード片手になにやらやりあっていたりする。最近の子供達は頭ばかり良くなって、体の方がおろそかになっている。公園の側を通る度にいつもそんな事を思うのだが、そう思う度に年を感じる。そして、思ってからすぐしまったと苦虫を噛み潰す。
こんな雨の日も、そんな日課を消化していた。
芳彦の勤める大国町支社は、江坂のマンションから大阪市営地下鉄御堂筋線で一本である。その手前にあたる難波駅のナンバパークスビル29階に、JJSの本社が入っている。結局昨晩はあのまま寝付けず、日が昇り始めた頃には部屋を後にしていた事が功を奏して、ラッシュとは無縁の時間だ。もともとラッシュの時間帯でも、江坂から混み合う事は余りないのだが、それでも梅田を過ぎたあたりから車両内はぎゅうぎゅう詰めになってくる。あのなんとも言えない中年スーツ達の汗の匂いや加齢臭がとても苦手だった。昔はそれに加えて女性の香水の匂いも混ぜこぜになって、今にも吐きそうな日が何度かあったが、最近は女性専用車両なるもののおかげで多少はマシというものだ。
そんな事を思いながらガラガラの車両の一番端っこに座って、中吊りの芸能ニュースに目を通していた。
新大阪を過ぎ、次駅の西中島南方で停車した時、奇妙な男が乗り込んで来た。。
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2006年04月20日

Code  -page2-

視線は膝を突き抜けて平行の彼方を向いていた。
そのまま数分だろうか。ぼやけた己の膝の向こうを見据えていると、一瞬数字が見えたような気がした。
なんだ…今のは。
数字だと理解するより先に意識に視界を引き戻されてしまったが、確かに数字だった。数字の羅列が浮遊していたようだった。
よほど疲れている。その自覚と共にソファから腰を上げ、隣室のベッドに寝転がり大きく息をついた。
明日は本社に出向して新しいプロジェクトのチーム初顔合わせだ。不景気の煽りを受けてか、近頃業績不振が数字に現れ始めた為、観点を変えた商品が必要との執行部決定。通常、商品の内容に店頭営業部が口を挟むことはあまりなく、淡々と商品を売り、問題があればレポートを本社 企画マーケティング部へファックスするくらいのものなのだが、新商品考案において、ニーズと商品内容の差というものを埋めるべく、全国の支店長数名が指名され直に商品企画会議に出席するというものだ。
全国に300を越える支店を抱えた大手旅行社JJSの支店長という肩書きを、芳彦は身の程に比しない重石だと思っていた。朝までに湊町支店の社員全員に実施した「お客様の声アンケート」をまとめなければならない。
まだ半分も終えずに仕事を持ち帰って来たので、すぐにでも体を起こし、ノートパソコンの前に座らねばならない事を、頭では理解している。
だが、そんな事よりも芳彦には準備しておかなければならない事があった。
荒井芳彦。28歳。
そう何度も呟く。初対面の人間がどうにも苦手なのだ。名前と年齢。そんな簡単な事が声にならない。
いや、声にならないどころではない。違う名前を口にしそうになるのである。一年ほど前からであろうか。念の為と病院に行ってはみたが、何の異常も見受けられないとの事だった。
去年の春、新人研修の支店長挨拶の席で、この手でホワイトボードに全く違う名前を書き付け、大きな声でそう名乗ったというのだ。社員達も新人社員達も唖然とこちらを凝視していた事は今でも鮮明に覚えているが、名乗った事は全く記憶になかった。ボードに書き付けた文字も他人の筆跡にしか見えなかった。それからというもの、自己紹介の際は、できるだけ第三者に紹介してもらう事にしていた。
三田信次。29歳。
今までに付き合いのある誰かかも知れないと、いろいろ思い出そうとはしてみたがそんな名前の知人は一人もいなかった。
一体誰なのか。そんな事が、なぜか決まって睡眠から覚めた時に気になるのである。
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2006年04月14日

Code

 その日、やさぐれるような暗雲が、スプレーで吹き付けたように窓にへばりついていた。四畳半の小さな部屋の隅から、ぼんやりと自分の心をそこに重ねていた。ハッと我に帰り、画面に視線を戻し最後の仕上げにかかる。もうすぐだ。数時間後には、僕は誰かのものになる。僕の所有していた全てのモノも、平凡極まりない家族や友人達も、この体の細胞や血に至るまで、全てが誰かのものとなる。アレを除く全てのものが。不安はない。むしろ清々しさすら感じている。ずっと待ち望んでいたのだ。この世界はもう飽きた。
 
 雷鳴で目が覚めた芳彦は、妙な違和感を覚えた。両足の感覚が、どこか遠くに行ってしまったように薄まっていて、少し恐くなって体を起こした。昨晩、残業で疲れた体をベッドまで連れていけずにソファで眠りこけてしまったのが原因のようだった。感覚が痺れを引きずって戻ってくる。以前この状態のまま立ち上がった時、バランスを崩しておもいきり親指の爪を柱にぶつけた事がある。軽い打撲だと放っておいたのが仇となって、痛みは増し、遂には歩けなくなってしまった。医者にかかった時には、「どうしてこうなるまでうちに来なかったんだい」と言われながら、爪を剥がされる始末。痛みを抑える為の麻酔注射のそれ自体が痛くて、情けない気持ちになったのである。今回は二の舞を踏まないように、感覚が戻るのを待とう。あたかもそれが自分に課せられた使命のように、じっと足を見つめながら腰掛けていた。。




今日は、特に話題がありやせん。ので、小説でも書いてみました。話題がない時はこの続きを書いていこうと思っていますが、突然終わったりもします。気まぐれです。
posted by Maa at 06:34| Comment(2) | TrackBack(0) | Code [不定期連載小説] | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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